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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」

男は「別名で保存」、女は「上書き保存」問題〜彼氏は過去を愛しすぎてる

そもそも女がそんなくだらないことをするのは、男がモトカノをまなざす際にかけるメガネのピントがトチ狂っているからなのだ。

「別名で保存」と言えば聞こえはいいけれど…

だから、モトカノの愛が完全に冷めていることにも、もう自分のことは便利な男としてしか見ていないことにも、実はモトカノは自分が思っていたより全然意地汚くてずるくて邪悪だったことにも、10代の時にピュアで可愛かったモトカノも今となっては計算高くてスレまくったおばさんになっていることにも、前妻が自分をキャッシュディスペンサーと呼んでいることにも、ただ単にモトカレにちょっかいを出して自分の価値を再認識したがっているだけってことにも気づかず、モトカノから「マジでピンチなの助けて」と言われると、イマカノが嫌がっていても飛んでいき、前妻の理不尽な要求に答え、泣いているモトカノの肩を抱いて、モトカノが変な男に引っかかっていることを心配し、イマカノをやきもきさせる。

別名で保存、なんていうのは大変好意的な言い方であって、実際は人の変化に鈍感で、手をつけた女をなんとなくまだ所有している気になっているだけの、間違った正義感を振りかざした、自分への好意が完全に消えたと思いたくない、そしてできれば今後も嫌われたくない臆病で単眼的な性質が、結果的にいくつものファイルをデスクトップに散らかしている状態を呼んでいるだけとも言える。

女はイマカノであると同時に誰かのモトカノであることが露わにする事実

イマカノたちはそういった男のトチ狂ったメガネと間違った正義感をよく知っている。
なぜか。

女はイマカノであると同時に誰かのモトカノでもあり、モトカノとしての自分がいかに男に冷酷で、愛なんて綺麗さっぱり冷めていることを知っているし、すっごく寂しい時やとりあえず男手が欲しい時にモトカレがいかに便利に動いてくれるかも知っているからだ。

男は平気で女を怒らせるわりには、自分に好意を持っている女に嫌われる勇気がないヤツが多くて、モトカノや前妻に冷たくする罪悪感に耐えられないのは、優しいからではなく嫌われたくないからだ。

そういう男の、できれば全部の女にいい男と思われたいし嫌われたくないしモトカレとなってでも彼女の特別な立場を失いたくない、というビンボー臭い精神を、別名保存と呼ぶなら呼ぶでいいけれど、とにかく一つ言いたいのは、君たちが嫌われないように努力すべきなのはイマカノに対してであって、過去にちゃんと冷たくして過去にちゃんと嫌われる、という行動ができないと、自分の中でファイルが増えているつもりでも、女の中では自分の名前のファイルは綺麗に上書き、もしくは意思を持って削除されていくだけですよ、ということです。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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