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二宮寿朗「1980年生まれ。戦い続けるアスリート」

“日大藤沢100カ条”で成長した館山昌平は、いかにして松坂大輔と戦ったのか!?

延長12回の死闘。松坂の奪三振数は19、館山はゼロだった。

館山もここからピッチャーとして飛躍を迎える。

翌春のセンバツではベスト4まで進んだ(横浜は優勝)。2回戦は近江高の木谷寿巳(05年に東北楽天ゴールデンイーグルス、大学生・社会人ドラフト6巡目)、3回戦は豊田西高の松下克也(慶応大に進学)、準々決勝は高鍋高の矢野修平(98年に広島カープ、ドラフト3位)、準決勝は関大一の久保康友(04年、自由獲得枠で千葉ロッテマリーンズ)と名だたるピッチャーと投げ合った。

観察の対象は神奈川県内から全国に広がった。特に木谷、松下両投手のピッチングが非常に参考になったそうだ。投球を映すにはテレビのアングルが「僕には一番、しっくりくるんです」。松坂のピッチングも研究してきたが、ここではっきりと“松坂離れ”を決意する。

「マツ(松坂)の背中から来るイメージに対して、松下くんと木谷くんは真っ直ぐのラインから来る。力強いマツを追いかけるんじゃなくて、センバツで2人を見ることができたのが大きかった。プレートの位置、右足の残した形を少し変えて、投げるラインも変わった。このことによってシュートのラインが良くなり、対になるスライダーも良くなりました。フォークもいいイメージになったんです」

センバツ後、自分の投球をマイナーチェンジさせていく。誰から指示されたわけでも、アドバイスされたわけでもない。学び、考えたうえで、自分で決断した。

そしてあの伝説の投げ合いが、待っていた。

大宮公園野球場での春季関東大会決勝。松坂とは満を持しての3度目の対戦となった。
松坂が力でねじ伏せれば、一方の館山は技でしとめる。
ゼロ行進はどこまでも続いた。延長12回が終わっても、2人は譲らなかった。スタンドもざわついていた。ブラスバンドによる応援もない。ただただ2人の投げ合いに、ここにいるすべての人の視線と関心が注がれていた。

「根くらべですよね。何とかゼロで乗り切っているから、ワンチャンスあれば何か起こるかもしれないとは思っていました。ヒット1つ、エラー1つ、フォアボール1つあれば、と」

しかしその根くらべに負けてしまったのは自分たちだった。延長13回表、一死一、三塁のピンチ。打者松坂が放ったゴロはゲッツーになるはずが、アウト1つしか取れずに「1点」を渡してしまった。館山の投球は150球を超えていた。その裏、松坂に封じられてゲームセット。手に汗握る両エースの投げ合いに、終止符が打たれた。

松坂が奪った奪三振の数は19、一方の館山はゼロだった。
当時の光景や心情を思い起こした館山は、ちょっと間を置いてから言葉を続けた。

「もしゲッツーが取れていたら次の回で三振を取っていたかもしれません。でもゼロだったから、自分が生きる道はここだって思えたのかもしれない。あの試合は、自分のターニングポイント。そう言えると思います」

日大藤沢の教え、堀内センパイ、センバツで出会ったライバル、そして松坂、3度目の対戦……。一つひとつの良き出会いを大切にしたからこそ、自分の向かうべき場所を探し当てることができた。

野球とは移り変わる状況判断と個人プレーの結集。

状況によって自分のカタチを変えながら、優れた個を己に取り入れる。100カ条の第1条に、館山らしい流儀が付け加わった感がある。

運命の出会いを自分の色に染めて、ピッチャー館山昌平の原型がここに出来上がった。

第3回に続く)

profile
たてやま・しょうへい/1981年3月17日生まれ、神奈川県厚木市出身。東京ヤクルトスワローズ投手。日大藤沢高校、日本大学を経て2002年、ドラフト3位で入団。2018年までの記録は85勝67敗10セーブ24ホールド。通算防御率3.31。最優秀勝率(2008年)、最多勝(2009年)などのタイトルにも輝く。一方で、2004年の右肘内側側副靱帯再建手術(トミー・ジョン手術)などケガに苦しみ、現在まで9回の手術も経験している。
試合など最新情報は東京ヤクルトスワローズの公式HPでチェック! 
https://www.yakult-swallows.co.jp/

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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